世界中で「スマートシティ構想」が広がっていることをご存知でしょうか。トヨタ自動車が“ウーブンシティ”と称して静岡県で次世代の街作りを進めている、と耳にしたことがあるかもしれません。各都市が抱える課題、別の表現をすれば私たちが住む地球全体が直面する問題を解決する方法として、スマートシティ構想が注目を集めています。実現すると従来の生活とは大きく異なる、まさに未来の暮らしが待っているんです。
本記事では、スマートシティとはそもそもどんな街をイメージしたものなのか、具体的なメリットやデメリットについても解説します。スマートシティは他人事ではなく、身の回りの都市でもすでに動き出している取り組みです。ぜひ参考にしてください。
スマートシティとは？
国土交通省はスマートシティの定義について、「都市の抱える諸課題に対して、ICTなどの新技術を活用しつつ、マネジメント（計画、整備、管理・運営等）が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」と掲げています。もう少し噛み砕いて説明すると、「限りある資源やエネルギーおよび地球環境に配慮しながら、AIやIoT・インターネットなどのデジタル技術を活用して、安全で持続可能な生活を目指し、様々な社会問題の解決を図る街作り」といえます。
日本が現在直面する課題として、“高齢化社会”“少子化”“エネルギーの枯渇”“都市格差”などが挙げられます。働き手が減少する中、より豊かで経済成長を遂げるためには最新のデジタル技術を最大限活用しよう、というわけです。IoT（モノのインターネット化）が普及した結果、あらゆるモノがネットワークに繋がり、膨大なデータを収集可能になりました。データを分析するためにAIを導入して、日常生活や企業活動を最適化します。最終的に都市全体の利便性や生活水準の向上を実現することが目標です。それを達成した街こそ、まさにスマートシティなのです。
構想に向けて必要な技術として、大量のデータを高速通信で送受信する「5G」、モノに搭載してデータ収集に用いる「センサー」、人間の生活状況を把握する「位置情報データ」が特に重要となります。
スマートシティのメリット、デメリット
スマートシティにはメリットとデメリットの両側面が存在します。それぞれ順に見ていきましょう。まず主なメリットは以下の3点です。
●SDGsに適した街作りが可能
●防犯・防災対策を強化
●生活の質を向上
化石燃料からの脱却を図り再生可能エネルギーの普及を目指すうえで、住宅や工場などのエネルギー消費を管理・制御する仕組みの構築は欠かせません。太陽光発電といった発電量が一定ではない電力を効率的に使用するには、人間の監視では不十分です。AIやセンサーの技術を大いに役立てるべきといえます。住居だけでなく工場の機器や商業ビルなどあらゆるモノにAIを組み込むと、エネルギーを最適化できると考えられます。
また、AIカメラを至る所に設置してリアルタイムに映像解析を行うと、いち早く異常な行動を検知して犯罪行為や災害を防ぐことが可能です。
身近な例として、子供たちの通学路で地域住民の方々が安全指導役となっていたところを、AIカメラが随時監視を続け、異常な状況を発見したらすぐ保護者や学校教師の携帯端末に通知する、という体制を整えられます。街全体にAIやIoTが導入されるわけですから、人間不在の場所でも常にAIの分析に基づいた最適化が繰り返され、生活が便利になっていきます。人口が減少傾向にある地方都市でも経済発展が期待でき、街が活性化するのが理想的でしょう。
一方、デメリットとして指摘されるのは下記の3点です。
●プライバシーの侵害
●サイバー攻撃に対する脆弱性
●特定企業のデータ独占
街中にAIカメラが設けられ、IoTを通じて無数の個人情報が日々収集されるため、プライバシーをきちんと保護できるのか疑問の声も出ています。あらゆる情報・データがネットワークで管理され、もしサイバー攻撃を受けるとシステムダウンを招き、生活に多大な支障をきたすリスクもあります。多少のシステムエラーを起こすだけでも、一部の活動が機能しないかもしれません。
そして、収集した膨大なデータ・情報を誰が管理するのかは非常に重要です。特定企業が権限を持つと、知らぬ間にデータを転用する、もしくはサイバー攻撃で狙われ情報流出を招く危険も高まります。地域住民全員が平等に監視して非中央集権化するのが望ましいですが、果たしてそれが可能なのか、難しい問題です。
スマートシティでAIが活用されている具体例を調べてみた
冒頭でも触れた、トヨタ自動車が推進するウーブンシティについてもう少し説明します。静岡県裾野市にあったトヨタ東富士工場の跡地を、「ヒト・モノ・情報のモビリティにおける新たな価値と生活を提案し、幸せ溢れる街づくり」というコンセプトのスマートシティに生まれ変わらせるプロジェクトを推進中です。
具体的には、AIや5G通信を活用した完全自動運転の実証実験を行う計画です。NTTと共同でスマートシティプラットフォームを実施するプランも立てています。医療や行政などあらゆる業務をAIが支援して“ヒト中心の街作り”を目指します。
他にも、東急不動産とソフトバンクが提携して、東京都港区の竹芝にて都市型スマートシティの実証実験を開始しました。ChatGPTをベースとした地域特化型生成AIを構築して、タッチ式サイネージを観光案内所に設置する計画です。街のリアルタイム情報を伝達したり、観光客向けに事前学習した街の情報を紹介する仕組みを構築します。
韓国では、世宗市と釜山市がスマートシティの実証実験都市に選定され、AIが最適な交通手段を提供するプログラムを開発します。スマートエネルギーや自動運転の研究開発も同時に進められ、スマートシティの実現を急ぎます。日本のみならず諸外国でもスマートシティ構想は広がりを見せており、AIをどう活用するかが鍵を握っているのです。
まとめ
日本国内でスマートシティ計画を進める地域を見ると、会津若松市、高松市、伊那市など大都市よりも地方都市が多いです。過疎化がますます深刻化し労働者不足に陥る地域こそ、スマートシティを構築して利便性を向上させることが急務なのでしょう。いくつかのデメリットがあるのも事実ですが、それらを改善する取り組みも進んでいます。安全かつ効率的で持続可能な未来型社会の実現は、一歩ずつ近づいているのです。
