人工知能(AI)は膨大なデータを事前学習して、それに基づいて推論を行う最新技術です。学習量を増やすほどAIの精度が高まるわけですが、AIの活用には問題点も指摘されています。
近年、仮想通貨で用いられるブロックチェーン技術とAI技術を融合させることで、AIが抱える課題を解決できるのではと考えられています。本記事では、ブロックチェーンとAIを組み合わせるメリットを説明します。さらに、次世代のAIともいわれる分散型AIについても、基本的な概念から丁寧に解説しますのでぜひ参考にしてください。
なぜAIとブロックチェーンの相性が良いのか解説
ブロックチェーンとは、仮想通貨「ビットコイン」の基盤となる技術として開発されたものです。取引データをブロックという単位で暗号化し、鎖(チェーン)のように繋げて取引履歴の正確性を継続的に維持します。複数の当事者がデータを共有して保存する仕組みのため、データの変更が不可能な共有台帳です。
従来から、情報を集約的に管理する方法としてデータベースが用いられてきました。特定のサーバーにすべてのデータを保管すると、サーバー障害が発生した時にサービスを停止したり、不正アクセスの被害に遭うリスクに晒されます。対照的にブロックチェーンは、権限を持つ当事者たちがデータのコピーをそれぞれ保存します。ハッキングやデータ改ざんが困難であり、トランザクションに対する信用を確保することができるわけです。
人工知能(AI)は、生成AIという形式に進化を遂げ、ChatGPTに代表されるAIツールが普及しています。しかし、AIが抱える課題も無視できません。
●誤ったデータを学習して、間違った回答を出力する
●データの収集過程でプライバシーを侵害する恐れがある
特に、存在しない情報をまるで事実かのごとく回答する現象を“ハルシネーション”とよび、AI活用における大きな問題です。この課題を解決する手段として、ブロックチェーン技術とAIの融合が提案されているのです。
最大の利点は、AIが使用する情報やデータの出所を追跡できることです。生成したコンテンツの情報源を辿っていき、信憑性があるのか、誤情報ではないのか判断しやすくなります。ブロックチェーンという分散型台帳に記録することで、AIへの信頼が向上します。
人間の目で事実確認(ファクトチェック)を行う手間を削減でき、データセキュリティも高まります。ただし、情報源の記録を残しても、そのデータが書き換えられたら台無しですよね。
ブロックチェーンは、非中央集権的で複数の当事者がデータのコピーを保存します。データの変更履歴がすべて記録されるため、途中で不正に改ざんされた場合、すぐに発見できます。よって、AIが学習する膨大なデータの中に不正確な情報を悪意的に入れ込むことは原理的に不可能なのです。AIとブロックチェーンを組み合わせると、データの真実性と安全性を同時に確保でき、AI技術の発展に多大なメリットがあるでしょう。
分散型AIとは?徹底解説
分散型AIは、データ処理を特定のサーバーに依存せず、分散して処理する技術です。複数のコンピューターやデバイスが大量のデータ処理を分散することで効率的にAIを作動させることができます。
分散型AIという概念が発達した背景には、中央集権型AIの現状に対する問題点が挙げられます。AI市場は、ChatGPTを開発したOpenAI社、GoogleおよびMicrosoftといった超大手IT企業がほぼ独占的に占拠する状態です。
ほんの一握りの企業によって支配されると、該当企業の大規模サーバーに障害が起きた際、AIツールを正常に使えなくなるかもしれません。また、膨大な個人情報を管理しているため、プライバシー侵害を招く被害が出る可能性もあります。
分散型AIの導入は、こうした課題を解決するポテンシャルを秘めています。特定のデータを入力すると複数のコンピューターが自動的に分散処理し、リアルタイム同期を行いながら、情報を生成します。大量のコンピューターが協力して処理する仕組みを確立すれば、特定のサーバーで処理する大企業のAIより、迅速に処理できるといわれているのです。
現時点では分散型AIが活用できるのは、生成AIがアウトプットする場面のみです。基盤モデルを構築する事前学習は、複雑な計算が必要で処理するデータ量が計りしれず、分散型では対応しきれません。推論や予測という、データや情報を出力する場面で分散処理する活用法が主流になるでしょう。
分散型aiに関する最新事例を調べてみた
中央集権型ではない分散型のAIがどのように活用されているのか、具体的な事例をいくつか紹介します。
①自動運転
自動車業界やIT業界で研究開発が進められている自動運転技術は、大量のデータを高速処理することが必須です。各車両の走行情報を中央サーバーに移して処理するのは膨大なコストと時間を要します。そこで、都市圏ごとの分散型AIを活用して、リアルタイムに最適な運転ルートを出力する方式が検討されています。
②物流倉庫
事業者が管理する複数の倉庫の在庫状況を最適化するため、分散型AIを搭載すると効率化できます。倉庫ごとに分散処理したデータを中央AIに移せば、在庫変動への柔軟な対応が可能になります。
③SingularityNET
分散型AIの象徴的な事例が「SingularityNET」というサービスです。AIとユーザーを結ぶマーケットプレイス、平たくいえばAIツールを自由に売買できる環境を整えたのです。開発者側は使用状況の分析や収益管理を容易に行えます。ブロックチェーン上にサービスの利用履歴が記録される仕組みを採用しました。
まとめ
皆さんも、生成AIと聞くとChatGPTやGeminiを思い浮かべる方が多いですよね。AIプラットフォームはごく僅かな大企業が覇権を握っており、まさに中央集約的な状況となっています。日々フル稼働するAIがプライバシー侵害に該当しないか、データは正しく管理されているのか、ビジネスで活用する企業なら向き合うべき課題です。自社で逐一チェックするのは手間がかかりすぎるため、ブロックチェーン技術を導入して、トラッキングにより不正利用を防ぐ狙いはきわめて重要といえます。
分散型AIもまだ課題が多いものの、そういった中央集約型から脱する方法の一つとなります。すでにビジネスで導入する事例も出ており、今後の発展に注目したいところです。