銀行・保険・証券などの金融業界は、時代の進化に伴ってダイナミックな変革を見せています。地方銀行の再編や資本提携がニュースで取り沙汰されていますが、それだけではありません。金融業界には幾多の課題が浮かび上がっており、それらを解決する方法としてAIの導入が急速に進んでいるのです。金融(ファイナンシャル)と技術(テクノロジー)の融合を表す“フィンテック”という言葉を聞く機会も増えてきました。AIの活用で業務を効率化して、顧客との信頼や満足度向上に努めることが業界全体の重要な課題です。
この記事では、生成AIを導入するとどんなメリットがあるのか、大手企業がどのように活用しているのか、具体例を挙げながら解説します。
金融業界で生成AIはどう活用されている?調べてみた
金融業界、特に銀行が抱える課題には次のようなものがあります。
●顧客動向の変化
●データの保有・管理
●サイバーセキュリティ対策
最も改善が求められるのは営業支店の運営コストが嵩んでいる点です。そもそも若年層だと、銀行の窓口をほとんど利用したことがない方も少なくありません。人件費削減のため業務効率化が必須なほか、統合ATMの設置件数も増えています。
また、銀行は数十年にわたる長い付き合いの顧客を多数抱えています。そういった顧客のデータの管理は煩雑です。金融という事業を行う上で顧客データを正確に保有することは最重要なのは言うまでもありません。サイバー攻撃から大切な情報を守るため、テクノロジーの活用が必須なわけです。生成AIを活用することで、金融業界が持つ様々な課題を解決へと導いてくれます。
たとえば、顧客サービスの向上を図るためAIチャットボットを導入すれば、顧客からの問い合わせに24時間対応する体制を構築可能です。いきなり窓口で相談することをためらう場合でも、PCやスマホから気軽にチャットボットへ質問できます。
またAIは過去の膨大なデータから分析・予測を立てる作業が得意です。この利点を活かし、株式など金融商品の取引に関するリスク分析や、業界ごとの市場予測を行い、顧客に情報提供することも有益です。顧客ごとに最適な商品を紹介する窓口業務の一部をAIに任せ、社員の負担を減らすことにも繋がります。
近年はネットバンキングが普及して、インターネットを通じて送金する機会が増えました。サイバーセキュリティ対策の強化は最重要課題の一つです。AIが不正な取引を検知したり、常時監視を行いウイルスの侵入を防ぐことにも役立つでしょう。
銀行におけるAIの導入事例について紹介
ここから、AIを導入して業務効率化に成功している企業の取り組みを紹介していきます。
①三菱UFJ銀行
3メガバンクの一角で国内最大手の「三菱UFJ銀行」では、「Azure OpenAI Service対応チーム」を新設しました。文書検索や社内文書のドラフト作成、顧客対応支援といった用途で活用する場合、労働時間削減効果が月22万時間以上に相当するそうです。
②みずほ銀行
みずほフィナンシャルグループ傘下のみずほ銀行は、自社システムの開発や保守にChatGPTを活用します。設計書の記載漏れやミスをAIが自動で検知し、システム開発の品質を向上させる目的です。さらに、稟議書や契約書の作成支援にも使用する方針です。
③三井住友銀行
SMBCグループの「三井住友銀行」は、“SMBC-GPT”という独自のAIアシスタントツールを開発しました。全行員に展開し、文書作成や翻訳など多岐に渡る業務を支援します。
④ゆうちょ銀行
日本郵便やゆうちょ銀行を傘下に持つ日本郵政グループも生成AIを導入を進めています。社内チャットボットを用いて、過去の社内FAQの履歴をデータ化し、店舗社員からの問い合わせにAIが迅速に対応できる体制が整いました。情報の直接検索が可能になったため、社内のオペレーティング業務が大幅に削減されたのです。
⑤セブン銀行
セブン銀行は2025年2月から、キャッシュカードを持たずとも顔認証でATMの入出金が可能になるサービスを開始しました。世界トップクラスの精度を有する顔認証技術を搭載した次世代ATMを随時投入し、AIを活用した顔認証が可能です。1回の引き出し限度額は10万円に設定。不正利用を防ぐため遠隔監視する体制を新たに構築しました。
AIの進化で将来銀行員は失業する?考察してみた
生成AIの導入が広がると、「将来自分の仕事が無くなってしまうのではないか?」と心配する行員も少なくないはずです。世界各国の大手銀行では、2023年の一年間で6万人超の人員削減が実行されました。国内でも、3メガバンクグループが合計2万人以上の人員削減に踏み切ると発表し、最大10年程かけてリストラを進めます。
コスト削減のため支店の数を減らす以上、一定数の従業員が人員削減の対象になるのは致し方ないでしょう。しかし、将来銀行員が不要になるとは現状考えにくいです。
金融業界は顧客の資産を預かって業務を行います。大切な資産を管理する以上、仮にAIがエラーを起こしてトラブルが起きたとしてもAIに責任を押し付けて許されるものではありません。AIの開発から導入、運用、管理、保守に至るまであらゆる過程で人間が厳しく監視すべきです。ローン貸借など多額のマネーが動く業務を機械任せにするのは、顧客・企業双方にとって不安が残るでしょう。
窓口業務といったAIが得意とする分野は代替できる可能性が高いですが、顧客満足度を高める本質的な部分においては、依然人間同士の関係が重要となります。AIに関する知識を深めつつ、自社のどんな業務にAIを活用すべきか検討する思考力を持ち合わせることが望ましいです。
まとめ
3メガバンクだけでなく地方銀行および証券会社なども生成AIをビジネスで活用する事例が多数見られます。歴史が長い業界ゆえ古い慣習が残っており、非効率な業務を一部手作業で続けていましたが、AIの進化でようやく変わっていくでしょう。口座管理や簡単な手続きはネット上で済ませたいという顧客も増えていますから、テクノロジーを用いてニーズを満たす動きは必然ともいえます。再編待ったなしの金融業界で生き残るべく、各企業は生成AIをどう活用すべきか議論を重ねているのです。