ChatGPTの登場で急速に進んでいる生成AI導入の波は、医療現場にも押し寄せています。業界の動向を見ると、医療業界は現在大きな課題を抱えており、経営難に陥っている医療機関も少なくないと聞きます。人口減少に歯止めがかからない日本で医療体制を確保するには、生成AIの活用が欠かせません。
この記事では、医療現場が抱える問題点を探っていきながら、課題を解決するため生成AIをどのように活用すればいいのか、将来の医療現場は描く未来像も交えて、“医療とAI”について詳しく解説します。
医療現場が抱える問題点について解説
昨今、医療現場で最も深刻な問題として捉えられているのが、慢性的な人手不足です。高齢化社会の到来で、病気にかかる高齢者の数はこれからも増え続けることが想定されます。一方、少子化によって若手スタッフの人数が減少し、過酷な労働環境に耐えられず退職する医師や看護師も一定数います。2024年4月1日から医師の“働き方改革”が施行され、業界内で話題となりました。
●年間時間外労働は一般の労働者と同程度である960時間が上限
●月あたりの時間外労働を原則100時間未満に制限(※超過する場合面接指導が必須)
●特定の医療機関に限り、上限を年間1,860時間まで緩和するが段階的に縮減
●当直明けの連続勤務は前日の勤務開始から28時間に制限
●9時間の勤務間インターバル確保を義務化
●医師への追加的健康確保措置を義務化
この改革で、医師の時間外労働の上限を規制しました。さらに、医師の健康を守るための措置が義務化されています。
安定した医師の確保のために制限を設けるのは重要な施策ですが、ただでさえ人手不足が深刻な現場で労働時間を削減するとリスクが伴います。すべての患者に手が回らない、あるいは冷静で正確な判断できなくなる恐れが出てきます。
また、地域ごとの医療格差の拡大も重大な課題です。最新機器を完備した都会の大病院と、地方の小さな病院で医療の質に差が開くのは、決して見過ごせません。日本全国、場所問わず適切な医療を受ける権利を守ることは絶対に必要です。
将来は診断から治療までAIが行うようになる?
全国の医療現場が抱える問題を解決すべく、生成AIが医療における様々な場面で活用され始めています。さらに時代が進むとAIが医療の中核を担う存在となるのでは、といわれているのです。具体的な活用事例を4つほど取り上げてみましょう。
●医師の問診支援
●医療文書作成
●診療報酬算定
●退院時サマリー作成
患者への問診は、1人あたりの所要時間は短くても、年間単位だと相当な労力がかかります。「国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所」と「日本IBM」は、医師のアバターが患者を問診して治療の流れなどを説明する機能を搭載した生成AIの開発に着手しました。各学会の診療ガイドラインを学習させて、大阪国際がんセンターで実証試験を行います。実際の医師と同レベルで正しい返答や適切な受け答えを可能にすべく、性能を高めていく方針です。
ChatGPTなどのテキスト系生成AIの活用が最も期待される分野は、医療文書や退院時サマリーなどの書類作成業務です。「NEC」は、大規模言語モデル(LLM)を用いて電子カルテと医療文書の作成を支援する技術を開発中です。医療現場での対話音声を高精度に認識するAIによって電子カルテ作成を支援します。さらに、その電子カルテから治療の経過を要約して医師が短時間で手直し可能なドラフトを生成します。東北大学病院のカルテ10年分を学習させたデータベースを用意し、医療文書のフォーマットにあわせて文章を生成する能力を向上させる、といった実験を行っているようです。退院時サマリー作成の支援も問診同様、年間通して考えると業務時間の大幅削減に繋がるでしょう。
ほかにも、生成AIを搭載したロボットによる手術サポートなど、最も重要な医療行為の場面にも活用する動きが出始めました。MRIやCTの医療画像から小さな異変を速やかに発見して早期治療につなげる、薬の適切な投与量をAIが指示する、といった活用法もあります。
医療AIを活用する上での課題と期待について解説
医療現場でAIを導入するにあたり、注意すべき点に関して説明します。まず前提として、将来生成AIが医療業界に普及した場合も、すべての業務をAIが代替できるわけではありません。AIは、さも正しいかのように誤情報を出力するリスクがゼロではないです。当然ながら、医療においてミスは許されません。AIの間違った情報によって患者にトラブルが生じた際、責任の所在が不明確になります。
そういったリスクを極力低下させるには、大量の症例データを事前学習させる必要があります。ただし、症例には患者の個人情報も登録されており、適切に管理する義務が生じます。AIは過去のデータをもとに生成するので、症例が少ない病気や未知の病気には対応が難しいです。最終的な診断は、必ず専門の医師が判断すべきです。AIに判断を一任することは許されないでしょう。現時点では、生成AIが医療現場で使われることに、不安を抱く方も少なくないと思います。
5Gなどのテクノロジーと融合しながら、手術中に医師や看護師のアシスト、およびロボットを遠隔操作する段階までAIは進化すると考えられます。人手不足が加速化する医療業界で、生成AIの活用は待ったなしです。また、AIの発達は在宅医療を容易にするため、多くの患者に迅速で適切な治療を施すことを実現させるはずです。患者から十分な信頼を得るため、どのように精度を高めていくかが今後の大きな課題となります。
まとめ
医療行為という極めて専門性が高い分野だからこそ、AIの導入を慎重に判断すべきであり、AIの普及が日々の業務を大きく改善できるといえます。現在は、医療機関や研究所と民間企業が提携し、医療のあらゆる場面でAIを活用する方法を実験している段階です。画像診断や文書作成など、すでに生成AIの技術によって業務を代替できる部分もあります。
医療従事者の負担を軽減し、医療の地域差を縮減するため、生成AIのさらなる進化と高精度化が求められます。熟練医師に近い水準の学習を蓄積したAIと、現場の医師が連携して、私たちに安心できる医療を提供し続けてほしいですね。